『田園の憂鬱』論 第三章 「芸術の世界」と「憂鬱の世界」③


第三章 「芸術の世界」と「憂鬱の世界」



第三節 「彼」の「性分」




ここで「彼」の「性分」というところに論を戻すと、その「性分」とは、自然と人工の同居する「芸術の世界」を求める志向のことである。それはつまり、自然のみの世界に生きる田舎の〈生活〉に「芸術的因襲」を含んだ人口の美、〈神秘〉を求める志向のことであり、「彼」はそれを求めるあまり、あるいはそれを妻や田舎の人々が許容しないあまりに、ゲーテやダンテなどあらゆる先人による人工の美によって構成される神秘のみの「憂鬱の世界」に陥ってしまうのである。「彼」はこの志向によって妻との生活に生きるということ、自然の世界を見、そのために生きるということができなくなり、妻と同じ景色を見ていながらダヌンチオの白い犬を見、ブレイクの詩句を聞くという段階に至ってしまう。「彼」は自分と同じ世界を見ることも理解することもできず、受け容れられない妻(および妻をはじめとした一般の人々)に苛立ち、生活の中に神秘を求めるあまり、妻との生活をその価値を知りながらも疎んじてしまうのである。














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